事業再構築補助金 – 事業再構築の類型とは
(最終更新日:2023年5月23日)
事業再構築補助金は企業の思い切った事業再構築を支援する制度です。
しかし、“事業再構築”とはいったいどのようなことを指すのでしょうか?
事業再構築補助金の制度では“事業再構築”を5つの類型に分け、それぞれの類型に要件を設定しています。
補助金に応募するためには補助対象事業がこれらの類型に該当し、要件を満たす必要があるので注意が必要です!
今回の記事では事業再構築の5つの類型とそれぞれの要件について解説します!
- まずは5つの類型と要件の概要を紹介し、
- 次に要件の中でも判断が難しい新規性要件を満たさない例を紹介し、
- さらには事業再構築の類型の要件を満たす例を産業別に紹介し、
- 最後に組織再編要件を簡単に紹介します。
1. 事業再構築の5つの類型と要件(サマリー)
事業再構築は次の5つの類型に分類されます:
- 新市場進出(新分野展開、業態転換)(新たな製品等で新たな市場に進出する。主たる事業(業種)は変えない)
- 事業転換(主な事業(日本標準産業分類に基づく中、小、または細分類の産業)を転換する。主たる業種は変えない)
- 業種転換(主な業種(日本標準産業分類に基づく大分類の産業)を転換する)
- 事業再編(事業再編を通じて上記1-3のいずれかを行う)
- 国内回帰(海外で製造等する製品について、その製造方法が先進性を有する国内生産拠点を整備する)
それぞれの類型ごとに必要となる要件は下の表のとおりです:
類型 / 要件 | A 製品等の 新規性 | B 市場の 新規性 | C 売上高10% | D 売上高構成比 | E 海外製造等要件 | F 導入設備の先進性要件 |
---|---|---|---|---|---|---|
新市場進出(新分野展開、業態転換) | ◯ | ◯ | ◯ | |||
事業転換 | ◯ | ◯ | ◯ | |||
業種転換 | ◯ | ◯ | ◯ | |||
事業再編 | 組織再編要件 + その他の事業再構築要件 | |||||
国内回帰 | ◯ | ◯ | ◯ |
要件 | 具体的内容 |
---|---|
A 製品等(製品・商品等)の新規性 | 1. 過去に製造等した実績がないこと 2. 定量的に性能又は効能が異なること |
B 市場の新規性 | 既存事業と新規事業の顧客層が異なること、 既存事業の対象顧客を明確にした上で、新規事業の対 象顧客層が明確に異なることを事業計画で示すことが必要。 |
C 売上高10% | 新たな製品等(または製造方法等)の売上高が3−5年間の事業計画期間終了後、総売上高の10%以上となること |
D 売上高構成比 | 新たな製品等の属する事業(業種)が3−5年間の事業計画期間終了後、売上高構成比の最も高い事業(業種)になること |
E 海外製造等要件 | 海外から製造・調達している製品について、国内で生産拠点を整備すること |
F 導入設備の先進性要件 | 事業による製品の製造方法が先進性を有するものであること |
組織再編要件 | 合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡等を行うこと |
その他の事業再構築要件 | 新市場進出(新分野展開、業態転換)」、「事業転換」又は「業種転換」のいずれかを行うこと |
ここで言う新規性とは、事業再構築に取り組む会社や個人事業主自身にとっての新規性であり、世の中における新規性(日本初、世界初など)ではありません。
なお、2020年4月以降に新たに取り組んでいる事業について、新規性を有するものとみなされます。
それぞれの要件を満たしているかどうかの判断が難しい場合も想定されます。
次のセクションでは、とくに判断が難しいと思われる新規性要件(製品等、市場、製造方法等)を満たさない例をいくつか紹介します。
2. 新規性要件(製品等、市場、製造方法等)を満たさない例
製品等の新規性要件を満たさない場合
- 過去に製造していた製品を再製造する場合
- 既存の製品と新製品の性能に有意な性能差がない場合(例:従来から製造していた半導体と性能に差のない半導体を新たに製造するために設備を導入する場合)
- 既存製品の製造量を増やす場合
- 事業者の事業実態に照らして容易に製造等が可能な新製品を製造する場合(例:自動車部品製造会社が新たに製造が容易なロボット用部品を製造する場合)
- 既存の製品に容易な改変を加えた新製品を製造する場合
- 既存の製品を単純に組み合わせただけの新製品を製造する場合(例:自動車部品製造会社が既存製品である2つの部品を単に組み合わせたロボット用部品を製造する場合)
市場の新規性要件を満たさない場合
- 既存の製品とは別の製品だが、対象とする市場が同一である場合。新製品を販売した際に、既存製品の需要がそのまま代替され、その売上が減少する場合。(例:アイスクリームを提供していた事業者が、新たにかき氷を販売するが、単純に従来の顧客がアイスクリームの代わりにかき氷を購入することを想定する事業計画を策定した場合)
- 既存の製品の市場の一部のみを対象とするものである場合(例:アイスクリームを提供している事業者が、バニラアイスクリームに特化して提供するが、単純に従来の顧客が新たに提供するバニラアイスクリームを購入することを想定する事業計画を策定した場合)
- 既存の製品等の市場が対象であって、単に商圏が異なるものである場合(例:A駅前でアイスクリームを提供している事業者が、B駅前でアイスクリームを提供することを想定した事業計画を策定した場合)
3. 事業再構築の類型の要件を満たす例
新市場進出(新分野展開、業態転換)の要件を満たす例
製造業
航空機用部品を製造していた製造業者が、業界全体が業績不振で厳しい環境下の中、新たに 医療機器部品の製造に着手し、5年間の事業計画期間終了時点で、医療機器部品の売上高が 総売上高の10%以上となる計画を策定している場合
不動産業
都心部の駅前にビジネス客向けのウィークリーマンションを営んでいたが、テレワーク需要の増加を踏まえて、客室の一部をテレワークスペースや小会議室に改装するとともにオフィス機器を導入し、 3年間の事業計画期間終了時点で、当該レンタルオフィス業の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定している場合
事業転換の要件を満たす例
製造業
プレス加工用金型を製造している下請事業者が、業績不振を打破するため、これまで培った金属加工技術を用いて、新たに産業用ロボット製造業を開始し、5年間の事業計画期間終了時点において、産業用ロボット製造業の売上高構成比が、日本標準産業分類の細分類ベースで最も高い事業となる計画を策定している場合
業種転換の要件を満たす例
賃貸業
レンタカー事業を営んでいる事業者が、新たにファミリー向けのコロナ対策に配慮した貸切ペンションを経営し、レンタカー事業と組み合わせた宿泊プランを提供することで、3年間の事業計画期間終了時点において、貸切ペンション経営を含む業種の売上高構成比が最も高くなる計画を策定している場合。
製造業
コロナの影響も含め、今後ますますデータ通信量の増大が見込まれる中、生産用機械の製造業を営んでいる事業者が、工場を閉鎖し、跡地に新たにデータセンターを建設し、5年間の事業計画期間終了時点において、データセンター事業を含む業種の売上高構成比が最も高くなる計画を策定している場合。
4. 組織再編要件について
ケースとしては多くないかもしれませんが、組織再編要件を簡単に紹介します。
組織再編のパターンと定義
合併(吸収合併):合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるもの
合併(新設合併):合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるもの
会社分割(吸収分割):その事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後他の会社に承継させること
会社分割(新設分割):その事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割により設立する会社に承継させること
株式交換:発行済株式の全部を他の会社に取得させること
株式移転:発行済株式の全部を新たに設立する会社に取得させること
事業譲渡:事業の全部または重要な一部を譲渡すること等
事業再構築の該当性判断
組織再編行為等 | 事業再構築を行う会社 | 事業再構築の該当性判断 | |
組織再編行為等を行う前の範囲 | 組織再編行為等を行った後の範囲 | ||
合併 (吸収合併) | 合併後存続する会社 | 合併後存続する会社と合併後消滅する会社の合計 | 合併後存続する会社 |
合併 (新設合併) | 合併後新設される会社 | 合併後消滅する会社の合計 | 合併後新設される会社 |
会社分割 (吸収分割) | 事業を引き継ぐ会社 | 事業を引き渡す会社の該当事業と事業を引き継ぐ会社の合計 | 事業を引き継ぐ会社 |
事業を引き渡す会社 | 事業を引き渡す会社から引き渡す事業を除いたもの | 事業を引き渡す会社 | |
会社分割 (新設分割) | 新設される会社 | 事業を引き渡す会社の該当する事業 | 新設される会社 |
事業を引き渡す会社 | 事業を引き渡す会社から引き渡す事業を除いたもの | 事業を引き渡す会社 | |
株式交換 | 親会社 | 親会社 | 親会社 |
子会社 | 子会社 | 子会社 | |
株式移転 | 親会社 | 親会社 | 親会社 |
子会社 | 子会社 | 子会社 | |
事業譲渡 | 事業譲渡先の会社 | 事業譲渡元の会社の譲渡する事業と事業譲渡先の会社の合計 | 事業譲渡先の会社 |
事業譲渡元の会社 | 事業譲渡元の会社から譲渡する事業を除いたもの | 事業譲渡元の会社 |
5. 海外製造等要件について
国内回帰に該当するためには、海外製造等要件を満たす必要があります。1) 海外で製造・調達している製品であり、2) 国内に生産拠点を整備する計画であるということを事業計画を策定します。
- 海外で製造・調達している製品であること
事業により製造する製品について、事業を行う中小企業等(申請者)が海外で製造・調達している製品であることを、以下のa及びbによりお示しください。
a. 当該製品について、2020年1月以降に海外から調達した実績があること]
(例:2020年~2022年の各年における海外から国内への当該製品の納品量 等)
b. 2020年1月以降の当該製品の海外への発注及び海外からの納品の事実(a.を裏付ける取引の実績)
(例:上記を満たす、1つの取引に関する発注書及び納品書 等)
6. 導入設備の先進性要件について
国内回帰に該当するためには、導入設備の先進性要件を満たす必要があります。1) 先進的な設備を導入すること、2) 導入設備の導入効果を証明する事業計画を策定します。